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10BASE-T/100BASE-T/1000BASE-T/10000BASE-T ? 〜 IEEE 802.3小ネタ(5)

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技術標準規格ってお堅いものの代表ですが,そんなお堅い標準規格のひとつ,イーサネットの標準規格を定めているIEEE 802.3を,ちょっとマニアックな視点からイジってみようというシリーズです。(これまでの記事一覧はこちら)。
今回もまた名前ネタです。


イーサネットの高速化は目を見張るものがあります。光ファイバなら100Gビット/秒,ツイストペア線(UTP/STP)を使ったものでさえ10Gビット/秒に届いています。シールドしていないケーブルに高周波をどうして流せちゃえるのか不思議です。...が,そういう真面目な技術ネタはこのコラムでは取り上げないつもりです。


■10BASE-T/100BASE-T/1000BASE-T/10000BASE-T ?

さて問題です。
見出しに規格名みたいなものを4つ並べました:

「10BASE-T」 「100BASE-T」 「1000BASE-T」 「10000BASE-T」

この中で間違えているのはどれでしょうか。
前回の記事: 「IEEEはイーサネットが嫌い?」の,PoEの説明の中でUTPを使うイーサネットの規格にちょっと触れていましたので,それを読まれた方には一部ネタバレですみません。

(1)ひとつは「10000BASE-T」。
さすがにこれは気がつきますよね。正しくは「10GBASE-T」ですね。IEEE 802.3an-2006で規格化され,現在では IEEE 802.3-2012 の本編に統合されています。10ギガイーサネット規格を「10GBASE*」と書くなら,ギガビットイーサネットも「1GBASE*」で良かったんじゃないかと思うのですが,こちらは「1000BASE-*」と記します。記号名(シンボル)なので,そう決めちゃったらしょうがないですね。

(2) もうひとつの間違いは「100BASE-T」。
100BASE-Tという表現はいちおうありました。ファーストイーサネット(100BASEシリーズ)で,ツイストペア線を使う複数の規格をまとめて指すときの呼び名として,「100BASE-T」と総称する場合があったようです。複数の規格というのは,100BASE-T4と,100BASE-TX,100BASE-FX だそうです。なんで100BASE-FXが100BASE-Tの仲間に入っているのかは不明です。たぶんこの3種類だったと思いますが,それ以外にもあったかはちょっと確証がありません。たとえば100BASE-T2というものもあります。つまり,「100BASE-T」は特定の技術仕様を指し示していません。そして,今現時点で,これら3種類がどれも使われているのかというと,普通に使われているのは「100BASE-TX」だけです。これしかありません。ところが,イーサネット関連製品のカタログでも,ときどき「100BASE-T」と書かれているものを偶然に見つけてしまうことがあります。でもこれは「100BASE-TX」と書くべきところを間違えているものと思われます。「準拠規格: 100BASE-T」だと,どの規格に準拠しているのか正確にはわからなくなってしまいます。ネットワーク機器ベンダが知らなかったわけではなくて,印刷物やWebサイトを作るときの単なる誤植だと思いますけど。

「10BASE-T」と「1000BASE-T」はちゃんとした規格であり,普及して使われています(いました)のでどこから見ても正統派です。問題の答えは『100BASE-Tと10000BASE-Tの2つが誤り』です。

しかし,今回のコラムのネタとしては,これではまったくおもしろくありません。


■1000BASE-TXって無かったっけ?

イーサネットの規格を専門として,または雑学としてよくご存知の方で「1000BASE-TXって無かったっけ?」と思った方はいませんか? 残念ながら IEEE 802.3 の規格として 1000BASE-TX はありません。1000BASE-T でいいのです。その点ではハズレです。でも,実はこれがこの回の小ネタを書こうと思った素(もと)なんです。

1000BASE-Tはカテゴリ5eケーブル(以上)を使うことになっていますが(もしかしたら必須ではなくて推奨だったかもしれません),カテゴリ6のUTPケーブルを使うものとして"1000BASE-TX という名前のもの"はたしかに世に存在しました。

でも「1000BASE-TX」は,IEEEではなくてTIA/EIA (全米通信工業協会/米国電子工業会) で規格化されているものなのです。IEEE 802.3 でも一時期は検討されていたという話ですが,結局は規格にはならずにお蔵入りになったようです。そして,1000BASE-TX はほとんど使われることなく,こういう下世話なコラムでの話ネタとしてだけ生き残りつつあります。(これもまた怒られる書き方かもしれません)。上記で「100BASE-TXを書き間違えているケースがある」と書きました。実は1000BASE-Tの書き間違えではないかと思われる「1000BASE-TX」と記述したケースにも遭遇することがあります。ただ,こちらについては100%書き間違えというわけでは無いようで,TIA/EIAの規格に準拠して,正しく「1000BASE-TX」を指し示している場合もあるようです。IEEE 802.3では無いにせよ一度は規格になりかけた(いや,TIA/EIAでは規格になった?)ものなので。

本当にややこしいですよね。一般に普及してる範囲で言えば,『準拠規格: 10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-T」と書かないといけないんですが,『X』が漏れたり,隣に付いちゃったりという間違いをしやすいのでしょう。

今回の小ネタ:

100BASE-Tと1000BASE-TXは無くはないけど,書いてあってもたぶん書き間違い
 (でも,絶対に間違いとは限らないので要注意)

"たぶん"とか"限らない"とか,どうも腰の据わりの悪い小ネタになってしまいました。やっぱり,このシリーズのネタもそろそろ限界です。




■おまけ(1) 撚り対線を使うイーサネット規格を整理

このシリーズは,本当は小ネタだけを扱うコラムにして,役に立つ話は書かないつもりでしたが,前回同様にどうも尺が短すぎるので,撚り対線(ツイストペアケーブル)を使うイーサネット規格を整理してみました。記事のためというよりも,私自身の整理のためです。

名称10BASE-T100BASE-TX1000BASE-T10GBASE-T
IEEE
タスクフォース
規格化完了時期
802.3i
1990年9月
802.3u
1995年6月
803.2ab
1999年7月
802.3an
2006年6月
対応ケーブル
(100mの場合)
周波数特性
Cat.3
16MHz
Cat.5
100MHz
Cat.5e(推奨)
350MHz(?)
Cat.6A
500MHz
送受信に使用する芯線 送信1対+受信1対 送信1対+受信1対 送信4対&受信4対
(送受信で線を共有しながら全二重を実現)
送信4対&受信4対
(送受信で線を共有しながら全二重を実現)
伝送符号化方式 2値
マンチェスタ(1B/2B)
3値(MLT-3)
4B/5B
5値(4D-PAM5)
8B1Q4
16値 (PAM16)
64B/65B
通信モード 半二重,
半二重/全二重
半二重/全二重 半二重/全二重 全二重のみ
※お断り: やっつけ仕事で表を作ったので,もしかしたら部分的に間違いがあるかもしれません。

さて,なにやら専門用語風な語句ばかりが並んでしまってこのコラムらしくなくなったので,ちょっと後悔しています。ここではこんなマジメなことを説明したくはないのに...。

ただ,知って欲しいと思ったのは,ケーブルに要求される周波数特性の部分です。

1990年台に10BASE-Tを使うようになったとき,「10Mbpsでデジタル通信するのだから,単純な矩形波だとしたら10MHzの数倍以上の高周波が流れているはずなのに,なんでシールドして無くて大丈夫なんだ?」と思いました。「芯線を撚るのがミソなんだよ」と,ハードウェアに強い先輩に教えられましたが,それでも「無茶をするなぁ」と思ったものです。その後に100Mbps→1Gbpsと高速化するのを見てきて,数10MHzでも不思議なのにその100倍って物理法則を超えている気がしたものです。なぜかというと,もし1GHzの高周波成分が含まれるとしたらその波長は30cm,10GHzなら波長は3cm,波長の半分とか1/4の長さの電線がアンテナになるので,何メートルもあったらどんどん輻射して減衰してしまうんじゃないかと思ったわけです。その頃は,100BASE-TXや1000BASE-Tの仕様を調べもせずに,そんな風に思っていたわけです。

10BASE-Tと10GBASE-Tとでは,当たり前ですが伝送速度が1000倍にもなっています。1000倍もの高速伝送を実現するには,伝送信号に含まれる高周波成分も1000倍になっちゃうのかというと,上記の表を見てもらうと16MHz→500MHzで,たったの30倍程度です。(この周波数特性は使用するケーブルが持つ特性なので,本当は正確ではないのですが)。
もしも,ケーブルに1000倍も高い周波数特性が求められたとしたら,10ギガイーサネットをツイストペアケーブルで実現するのは無理だったでしょう。1000BASE-Tすら無理だったと思います。高速化のたびに符号化方式を工夫したり,1000BASE-Tからは送受信に使用する芯線を増やしたり,信号(データ)の処理としてはやたらと面倒な方式を工夫しつづけているのは,物理ケーブルを作ることが出来る範囲に収めようとした努力の結果だと思います。




■おまけ(2) - IEEE 802.3 の規格を読んでみようという勇気のある方に...

イーサネットの規格はこのコラムで取り上げたIEEE 802.3が原典です。私自身がそうですし,このコラムを読んでくださっている多くの方も同様ではないかと思うのですが,イーサネット製品を作って提供する側ではありません。イーサネットについて詳しく知りたいと思っても,普通は一般に出版されている日本語の解説書籍やインターネットで入手できる情報十分です。それでも,酔狂なといっては失礼かもしれませんが,必要性云々はともかくとして,規格の原典を参照してみたいという方もいるでしょう。もちろん,イーサネット対応製品を提供される企業の方たちはこんなコラムを読む前にご覧になっているとは思います。

IEEE 802.3 (イーサネット) の規格は次のURLから入手できます。
http://standards.ieee.org/about/get/802/802.3.html
余談ですが,IEEE 802.3 を「イーサネットの規格」と呼べるようになったことを嬉しく思います。(詳しくは第4回の記事をご参照)。

2014年8月現在,このページには IEEE 802.3™-2012 のPDFファイルが並んでいます。
IEEE 802委員会で確定した標準文書は,標準化が完了した当初6ヶ月間は有償です。6ヶ月を過ぎると無償でダウンロードできるようになります。ただし,ダウンロードに際しては使用許諾に合意して電子メールアドレスを登録する必要があります。

ちなみに,このコラムは802.3が対象ですが,その他の802委員会の標準,たとえば802.11無線LANなども同様に入手できます。
http://standards.ieee.org/about/get/

さて,IEEE 802.3™-2012 ですが,セクション1からセクション6までの6分冊になっていて,全部の合計は3500ページ以上,90の章と山ほどのAppendixで構成されています。(章は原文では「clause」と書かれているので,節というのが正しいのかもしれません)。難解で膨大な技術文書に挑戦するのがお好きな方がいらっしゃったら,いかがですか?しばらく退屈はしないと思いますが...。

いやぁ,電子ファイルで読める時代になって本当によかった。といいながら,もちろん通して読んだりはしていませんが。




■参考資料

1 石田治/瀬戸康一郎(監修), 「改訂版 10ギガビットEthernet教科書」, インプレス, 2005年,
 ISBN4-8443-2092-0, https://store.libura-pro.com/purchase?id=1j14k76btq75
2 一般社団法人 電子情報技術産業協会 (JEITA) -「ツイストペア配線最新規格動向と関連情報」
 http://home.jeita.or.jp/is/seminar/110210_igcs/pdf/4.pdf
3 銅線の限界に挑む10GBASE-Tの仕組みとは?
 http://ascii.jp/elem/000/000/433/433067/
4 日経BP ITpro - 「10GBASE-T」, http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20060105/226905/

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